- AIエージェント運用の「見えない」難しさ
- 既存のモニタリングツールを見送った理由
- 仕組み:JSONファイル1つで状態を共有する
自社AIをオフィス画面で見守る仕組みを自作した話
AIエージェントを社内で1つ、2つ、3つと増やしていくと、ある日「あれ、いま何が動いていて、何が止まっているんだっけ」という瞬間が必ず来ます。私たちNectoでも、営業AIの「ケン」、広報AIの「ミナ」、メディアAIの「ハナコ」と増えるにつれて、それぞれの稼働状況を頭の中で追いきれなくなってきました。本記事では、その問題を解決するために自作した「AIオフィスダッシュボード」の設計思想と仕組みを公開します。1日で組めて、改造も自由な、シンプルな作りです。
AIエージェント運用の「見えない」難しさ
AIエージェントを業務に組み込むと、便利な反面、いくつかの新しい困りごとが生まれます。
1つ目は稼働状況が見えない問題です。エージェントは黙々と動くので、「今動いているのか、止まっているのか、エラーで落ちているのか」が直感的に分かりません。何かおかしいと気づくのは、出力が来なくなって数日経ってから、という事態が起きます。
2つ目はチーム間で進捗を共有できない問題です。営業AIが今週何件のアウトリーチを送ったか、広報AIが何本の投稿を作ったか、こういった数字を共有する場所がないと、AIの成果が会社の数字に貢献している実感が湧きません。
3つ目はAIの「ありがたみ」が薄れる問題です。これは情緒的な話ですが、エージェントが裏で黙々と働いているだけだと、社内の人が「ああ、AIに任せてよかったね」と感じる機会がありません。可視化することで、AIが社内文化に溶け込みやすくなります。
既存のモニタリングツールを見送った理由
最初は既存のSaaS(インターネット経由で使うソフトサービス)を検討しました。DatadogやGrafanaのような本格的なモニタリングツールです。しかし結論として、私たちの用途には合いませんでした。
理由は3つあります。1つ目はオーバースペック。これらは大規模システム向けで、3エージェント程度を見るには機能が多すぎ、設定も複雑です。2つ目はランニングコスト。月額数千円から数万円かかり、小規模運用では割に合いません。3つ目は表現の自由度。エージェントを「社員」のメタファーで表現したかったのですが、汎用ツールではそういう独自の演出が難しいのです。
そこで自作することにしました。Webの基礎技術(HTML/CSS/JavaScript)と、JSONファイル1つだけで完結する設計です。
仕組み:JSONファイル1つで状態を共有する
設計はとてもシンプルです。中心にあるのは status.json というファイル1つだけ。各AIエージェントは自分の状態が変わったタイミングで、このJSONに自分の情報を書き込みます。Webページ側は数秒おきにこのJSONを読み込んで、画面を更新します。
書き込まれるのは、エージェントID、表示名、現在の状態(稼働中/待機中/エラー)、今やっているタスクのメッセージ、累積の指標、最終更新時刻、といった基本情報だけです。各エージェントは update_agent("ken", status="working", message="名刺を取り込み中...") のような1行を呼ぶだけで状態を更新できます。
なぜわざわざDBを使わずJSONファイル1つで済ませたのか。理由は「壊れにくさ」と「移植しやすさ」です。DBサーバーが必要だと運用が複雑になり、エラーポイントも増えます。JSONファイルはどの環境にもあり、何かあれば直接エディタで開いて確認・修正できます。シンプルだからこそ事故が起きません。
オフィスメタファー:AIを「社員」として並べる
このダッシュボードで一番こだわったのが「オフィスのメタファー」です。AIエージェントをただの技術的なプロセスとして並べるのではなく、社員のキャラクターとしてオフィス風の背景に配置しています。営業部の「ケン」、広報部の「ミナ」、そしてこれから加わるメディア部の「ハナコ」。それぞれがアイコンを持ち、ステータスに応じて表情やメッセージが変わります。
このメタファーには2つの効果がありました。1つ目は社内の会話が変わったこと。「AIが動いている」より「ケンが今働いている」のほうが、人間にとって自然な認識になります。2つ目はクライアントへの説明が劇的に楽になったこと。不動産会社の経営者に「AIエージェント」と言っても抽象的でピンと来ませんが、「あなたの会社にもケンを置けます」と言うと、瞬間的に伝わります。
色使いはNectoのブランドカラーである紺とグリーンに揃え、フォントは日本語が読みやすい「Yu Gothic UI」を採用。細かい部分ですが、毎日見る画面なので「気分が上がる」見た目を意識しました。
運用してみてわかった3つの効果
実際にダッシュボードを使い始めて見えてきた効果を3つ挙げます。
1つ目はエラー検知の早期化です。「ケンが3日以上待機中のまま」というのが画面で一目で見えるので、不具合に気づくスピードが格段に上がりました。
2つ目は1日の業務リズムができたこと。朝の最初にダッシュボードを開いて「昨日の成果」を見るのが習慣になり、その日の優先順位を決めるトリガーになっています。
3つ目は「AI活用のお手本」として外部に見せられる資産になったこと。クライアントとの打ち合わせで画面を共有するだけで「Nectoは本当にAIを使い倒している会社だ」という信頼が一瞬で生まれます。営業資料として何より雄弁です。
まとめ
AIエージェントを業務に組み込む会社が増える中、「複数のAIをどう管理するか」は近い将来、必ず多くの会社が直面する課題です。高機能なSaaSを買わなくても、JSONファイル1つとシンプルなWebページがあれば、自社にフィットしたダッシュボードは1日で組めます。重要なのは、機能を盛ることではなく、自社のチームが毎日見たくなる画面にすることです。Nectoでは、こうしたAI運用基盤の設計から実装までを伴走支援しています。「うちの会社にもオフィスダッシュボードを作りたい」というご相談はお気軽にどうぞ。